
脱毛のコスト削減
この新しいマシンには、当初はI社のロゴをつけて発売されたサードパーティー開発のアプリケーションまであった。
ワードプロセッサ「イージーライター」、「ビジカルク」とMSの「マルチプラン」という2種類のスプレッドシートである。
I社PCは大きな成功を収め、またたく間にマイクロコンピュータのベストセラーとなった。
しかし、アップルUやその後継機アップルVと比べて、とりたてて優れたピジカルクマシンというわけではなかった。
ビジカルクやマルチプランは画面で見るかぎりアップルUでもI社PCでもまったく同じように見えたし、どちらのプログラムもI社PCで使ったほうが著しく速度が向上するというわけでもなかった。
I社PCの潜在能力を充分に発揮させるには、いままでのパーソナルコンピュー夕では見たこともないような機能を持つ、圧倒的な魅力を持つアプリケーションが必要だったのだ。
しかもI社PCの機能と明確に結びつき、買い手にI社PC以外に選択の余地を与えないようなアプリケーションでなければならない。
コンピュータを成功させるには、少なくとも一種類は圧倒的な魅力を持つアプリケーションが必要だと申し上げたはずである。
ある日、「Rー,2,3」の生みの親であるM・Mが私の家に現れた。
しかし、彼は中へ入ろうとしない。
「ネコを飼っているんだろう〜」と、彼は聞いた。
飼っているけど、一匹ではなくニ匹だ、と私は打ち明けた。
私は罪深い人間である。
Mはネコァレルギーだ。
単なるネコ嫌いというのではなく、ひどい瑞息の発作を起こすので「いままでにニ度しか起こったことはないんだけど、二度とも死ぬかと思うくらいひどかったんだ」と、Mは説明してくれた。
人と会ったときに、死ぬほどきみに会いたかったんだと言うことはよくある。
だがMの場合は、まさしく言葉どおりの意味だった。
このとき、私たちはまだ前庭に立っていた。
横には、彼が乗ってきた青いレンタカーが止まっている。
この男は、一時間飛ぶのに3000ドルかかるビジネスジェット機、カナデア・チャレンジャーでアメリカ大陸を横断し、エイビスで借りた一日ニ8ドル95セントの普通車に乗って、わが家にたどり着いたところだ。
私だったら、少なくともTバードぐらいは借りていただろう。
M・Mはトイレに行きたかったのだが、私たちはまだ前庭に立っていた。
彼は危険対報酬の比率を頭のなかで計算しながら、わが家の気性の荒いネコの姉妹、リサとジェリに出くわす危険を冒してまで、トイレに行ったものかどうか決めかねていたのだ。
「いまぐらいの時間には、たいてい二匹とも乾いた洗濯物の上で眠っているよ」と、私は断言した。
彼はネコと出会わないほうに賭け、トイレに向かった。
「大丈夫、後悔するようなことは起こらないから」と、私は彼の背中に声をかけた。
現実問題として、M・Mはかなり後悔しているのではないかと思う。
成功は、M・Mに大きな重荷となってのしかかっているのだ。
Mはちょうどいい時期にちょうどいい場所にいたおかげで、記録的な早さでとてつもない大金持ちになるにはどうすればいいかを正確に見きわめた。
事実、ブルックリン生まれで大学院を卒業し、ドラッグをたしなみ、ディスクジョッキーをやり、超越膜想の教師や精神科病棟の指導員をしたことがあり、そこそこ能力のあるプログラマだった男が、いまはマサチューセッツ州ブルックラインに13エーカー(約二万7000坪)の土地と600万ドルの邸宅を所有し、一200万ドルの自家用ジェット機を持ち、おそらく世界で最大と思われる年代もののアロハシャツのコレクションを持つほどの大金持ちになっている。
それなのに、なぜ幸せではないというのだろう。
M・Mは、自分は詐欺師なのではないかと感じているのだ。
だから幸せではないのだと、私は思う。
徒弟、職人と親方からなるギルドシステムは、そもそも仕事を奨励するためではなく、人々を締め出すことを意図して始まった。
徒弟として6年間過蓉」さないかぎり、鍛冶職人にはなれない。
しかし、この「詐欺師のような気分」はM・Mのみならず、アメリカ全体に影響を及ぼしている重大な問題である。
ここで言う詐欺師とは、自分自身の力で成功したわけではなく、なんの苦労もなくいとも簡単に成功したと感じている人間を指す。
単に頭がキレるだけでは不十分だ、と私たちは教えられてきた。
頭がキレて、なおかつ一生懸命に働き、長い間苦労しなければならないのだ。
私たちは成功に向かって積極的に突き進まなければならないが、その成功が他人を犠牲にしたものであってはならないと考えている。
そんなことは不可能だと思うが、どうだろう。
1980年代、M・Mやドナルド・トランプが頭と度胸だけで成功したとき、私たちはそんな考え方から一時的に脱した。
しかしその後、彼らに何が起こったか見るといい。
ジャンクボンドは市場を舞台に名を馳せたミルヶンは株価操作などの罪で禁固刑を受け、一時は不動産王と呼ばれたトランプは現在、多額の負債を抱えている。
そして、安直な金儲けに対する形勢は逆転し、その金が高度な知性から生まれた製品で得たものであっても反発を買うようになったのである。
M・Mや、多くのコンピュータ億万長者たちも例外ではない。
私たちはいま、私が「罪悪感システム」と呼ぶものの復活のさなかにいるのだ。
教育機関の歴史を遡ると、罪悪感システムは中世のギルドシステムにまで仕事や地位を獲得するための苦労や職業の制約といった考え方は、今日の教育システムにまで続いている。
学位を取得するために、実際に勉強することとは、ほとんどあるいはまったくといっていいほど関係のない条件や制約に振り回されることになるのだ。
私たちは、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックが一夜にして有名になったことに対してなんの異論も唱えない。
しかし、博士号の取得に平均8年もかかる教育システムもまた支持しているのである。
そんなバカげたギルドシステムを我慢するのはやめる、という手もある。
実際、B・Gはそうした。
もしそうしていなければ彼はハーバードに残り、偉大な数学者の一歩手前ぐらいまではいっていただろう。
1‐2、3を考え出すことによって、Mも同じことをした。
だが彼はいまおじけづき、精神的な代償を払っている。
鹿のような目をしたM・Mは良心の耐笥を感じ、そんな必要はないのに悩んでいるのだ。
人間は誰でも、ある意味で詐欺師である。
もちろん、私もその一人だ。
しかし、かわいそうなMはそのことに罪悪感を持っている。
彼は自分の財産が卓越した才能で築き上げられたものではなく、「優れた芸術家は模倣するが、偉大な芸術家は盗む」と、パブロ・ピカソは言った。
ちょっと利口なやり方で手に入れたものだということをよく知っているのだ。
しかし、そのどこがいけないというのだろう。
彼は、1,2,3が革新的な技術ではなくタイミングと運のよさで成功したことを知っている。
ダン・Bと彼が開発したピジカルクがなければ、1、2、3も、大邸宅もジェット機も、アロハシャツのコレクションもあり得なかったことを、Mはよくわかっているのである。
「リラックスして、楽しむんだ」と私は言うが、M・Mはリラックスしようとしない。
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